東京高等裁判所 昭和31年(う)398号 判決
被告人 森寿 外一名
〔抄 録〕
一、論旨第二点について。
原判決が、被告人等の原判示所為は、それぞれ公職選挙法第二二一条第一項に該当すると判示するにとどまり、同条項の第何号に該当するものであるかという点を明らかにしていないことは、まことに所論のとおりである。そこで公職選挙法第二二一条をみると、同条第一項には、第一号乃至第六号において、それぞれ内容を異にする犯罪行為が規定してあるのであるから、判決に適用法令を示すには、単に同条第一項と判示するにとどまらず、その第何号に該当するかという点までを適確に明示するのが正当であるといわなければならないが、元来公職選挙法第二二一条第一項は、同条第二項及び第三項所定のような特別の身分を有しない者が公職の選挙に関してなしたいわゆる買収又は利害誘導の行為ならびにこれに対応する行為を処罰しようというにあつて、その各罪の性格はほぼ同じようなものであるし、その第一号乃至第六号のいずれに該当するとしてもその法定刑は同一であるから、もし同条第一項各号のいずれかに該る犯罪をなした場合であれば、その適用法令を示すにあたつて同条第一項と判示すれば、特にその第何号に該当するものであるかという点まで明示しなくてもその法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすものではないと解しえられるのみならず、必ずしも判決に理由を附しない違法があるともいえないと解するのを相当とする。しかしながら、ひるがえつて本件の場合をみると、原判決が証拠によつて認定した事実は、被告人両名は原判示町議会議員選挙に際し、原判示候補者石和田万二に当選を得させる目的をもつて、共謀の上原判示進藤政太郎に対し投票ならびに投票取りまとめの選挙運動を依頼し、その費用ならびに報酬として二回にわたり現金七千円を供与したが、被告人のうち、森寿は前記候補者の出納責任者であつたというのであるから、同被告人の所為は公職選挙法第二二一条第一項よりも法定刑が重い同条第三項に該当し、また被告人石和田四兵衛の所為は同法第二二一条第三項、刑法第六〇条、第六五条第一項、第二項、公職選挙法第二二一条第一項第一号に該当することが明らかである。従つて被告人両名に対する適用法令を示すにあたつていずれも単に公職選挙法第二二一条第一項とのみ判示したに過ぎない原判決は法令の適用を誤つたものというのほかはない。もつとも被告人石和田四兵衛に対する関係においては刑法第六五条第二項を適用する結果、結局公職選挙法第二二一条第一項第一号によつて処断すべきものであるから、前に述べた理由により、右法令適用の誤りは判決に影響を及ぼさないものというべきであるが、被告人森寿に対する関係においては判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決中同被告人に関する部分は破棄を免れない。論旨はこの点において理由がある。
(花輪 山本 下関)